2005年03月07日

スマイリーの読書クラブ・新版・第2号

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○●○ スマイリーの読書クラブ・新版 ●○●
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−スマイリーの読書クラブ−
1.毎月第一月曜日の朝発行です。
2.読書好きの働き盛りの方々に、多彩な書籍の情報をお送りします。気に入っていただけたら、オンライン書店で、すぐに購入できます。
3.コンテツンツは次のとおり。
 (1)注目のビジネス書
 (2)「今月のおすすめ書」または「新聞・雑誌の読書コーナーから」
 (3)特集:
 (4)図書館の蔵書から
 (5)今月の心に残る言葉
 (6)スマイリーの日記
4.登録・解除はこちら
http://www.mag2.com/m/0000131354.htm
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−第2号(2005年3月7日発行)−

0.始めに
本好きの皆さん、こんにちは!スマイリーです。
元気にお過ごしですか。
しばらくお休みをいただきましたが、先月から発行を再開しています。
なお、今回から月間でお送りいたします。

(目次)
1.今月のおすすめ書
 ―新井喜美夫「『善玉』『悪玉』大逆転の幕末史」(講談社+α新書。800円+税)―
2.注目のビジネス本
 ―あびる やすみつ「アフィリエイトでめざせ!月収100万円」(秀和システム。1500円+税)―
3.特集:古典再読
 ―芥川龍之介「羅生門」他(新潮文庫)―
4.図書館の蔵書から
 ―香山リカ「若者の法則」(岩波新書。700円+税)―
5.スマイリーの日記
6.今月の心に残る言葉 
(アマゾン)
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/redirect?tag=smilynet-22
************************** 本誌 ************************************

1. 今月おすすめ

−新井喜美夫「『善玉』『悪玉』大逆転の幕末史」(講談社プラスアルファ新書。800円+税)−

●ここのところ私は、しばらく時代小説や日本史関係の本から遠ざかっていましたので、この本を店頭で見かけたとき、幕末物ということで空腹を感じ、正直なところあまり期待せずに買ってみました。ところが、読んでみるとこれが実に面白い。見方がユニークなのです。通勤帰りの電車の中で読み始めて夢中になり、危うく下車駅を乗り過ごすところでした。
●簡単に言えば、タイトルどおり、従来高く買われていた人物の評価を下げ、どっちかというと低評価されていた人物を高く評価する、という幕末の重要人物の評価を見直した、なかなか勇敢な本です。
●著者の新井喜美夫氏は1927年生まれで明治生命から東急グループに転じ、東急エージェンシーの社長まで勤めたビジネスマンですが、同時に、歴史、ビジネス両分野の著書も多いというやり手です。
●大胆な内容の本だけに、学問的な興味で読むよりも、どっちかというと楽しんで読むことが大切な本でしょう。歴史の解釈なんて、しょっちゅう変わるんですから。戦前から戦後にかけて評価が逆転した平将門や足利尊氏のような例もありますし。
●この本では、例えば第三章で、幕末の人物の中でも人気随一の坂本竜馬を取り上げていますが、この国民的な人気者を、幕末に一定の役割を果たしたことは認めながらも、「悪質な当り屋」、「金儲け好きの商売人」、「幕末の暴走族」、「命を狙っていた筋もいろいろと考えられる、かなり恨まれた人物」とこき下ろしています。
●特に著者は、竜馬が、ずうっと倒幕に動き、薩長の融和までやりながら、死の直前になってどういうわけか公武合体に走り、その筋書きを作って倒幕派を裏切ったことを問題にしています。そして、その陰に、勝海舟の意思を嗅ぎ取っています。
●私は7〜8年前、銀座の司馬遼太郎展で、坂本竜馬の直筆の手紙の実物を見たことがありますが、伸びやかな筆致、朱墨を交えたカラフルな筆使い、風景の絵まで書き込んだビジュアルさ、などを目の当たりにして、司馬遼太郎さん描くところの魅力的な坂本竜馬像を信じることにしました。しかし、新井氏のような見方もあってよいと思います。
●次いで、坂本竜馬と並ぶ人気者である勝海舟も第六章で取り上げています。著者によると、海舟は幕臣でありながら倒幕に手を貸した「裏切り者」であり、日本の行く末についても、案外、長期的視点では見ておらず、野心家で自己顕示欲の強い「ほら吹き」と著者は断じています。しかし、同時に、彼がその「ほら話」で歴史を変えたことも著者は認めています。
●一方、著者が高く評価しているのは、井伊直弼、小栗忠順(おぐりただまさ)などです。
●小栗忠順については、私は良く知らなかったのですが、友好使節団として米国に渡った折、米国通貨と日本の通貨との交換比率を見直させた、という驚くべき話や、帰朝後、日本に製鉄所を作り、米国流の株式会社制度やマネージメントの思想をとりいれて(!)経営し、それが明治になって軌道に乗り、後に日露戦争の勝利につながった、というエピソードを読んでびっくりしました。
●また、まるでヒットラーかスターリンのような独裁者に見られている井伊直弼についても、あの激動の時代に、ただ一人適切な状況判断を行い、それを断固実行して、将来の日本への筋道をつけてから、自ら望むようにして殺された、と著者は絶賛しています。
●この他、評価ダウン組の筆頭に徳川慶喜がいます。また、西郷隆盛もダウン組に入ります。一方、評価アップ組では河井継之助、そして、もともと評価の悪くない松平容保は「真のラストサムライ」として大幅アップです。
●それぞれの新しい評価の理由が、具体的な事跡に基づいて説明されています。中には「?」という個所もあって、「トンデモ本では?」と感じる方も、この本の読者の中にはおられるかもしれませんが、総じて、なかなか説得力があります。
●歴史上の特定の人物があまりに一方的に英雄や人気者だったり、逆に悪役の代表だったりする評価には、私はもともと少々違和感を感じる性質ですので、この本を読んでちょったばかりほっとしたような気分になりました。日本史好きの方にはおすすめです。
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2.注目のビジネス本

―あびる やすみつ「アフィリエイトでめざせ!月収100万円」秀和システム。1500円+税)―

●二ヶ月続けて「アフィリエイト」に関する本を取り上げます。今月の本の作者はアフィリエイトの成功者として「その道」ではつとに有名な、いわゆる「スーパーアフィリエイター」と呼ばれている方です。
●この本は、先月ご紹介した和田亜希子さんの本よりやや上のレベルの方を対象にしているようで、IT初級の私には、「CSS」など、理解できない言葉がいくつもでてきて、正直なところ、よく分からないところがありました。しかしある程度HTMLなどの知識がある方には大変有益でしょう。
●この本を読んでいますと、含蓄のある文章が随所に出てきます。たとえば、「自分がこうしたいから、という理由でサイトを設計してはいけない。『ユーザーがこれを望んでいるから』という視点でサイトを設計しなければならない。」というアドバイスは、分かっていてもなかなか出来ないことですが、それを実行している方から聞くと「肝に銘じよう」という気になります。
●また、商品を紹介するにしても「(自分で)実際に使用してみるか、一定の基準で評価して紹介しないと、ユーザーの信頼を得ることは出来ない。」という厳しい発言をされています。成功する方は、取り組みに当たっての覚悟が違います。
●さらに、一番気にかかる「SEO」(検索エンジン最適化)については、中途半端にやらない方が良い、という、スーパーアフィリエイターならではの、意外で奥深いアドバイスもあります。
●あびる氏がこの本で一貫して強調しているのは、優れたコンテンツをつくることです。そのため、いろんな優れた具体例を紹介したり、いくつかのテーマをピックアップして「私ならこうする」というアイデアも披露したり、されています。この方は親切な方のようですね。その他、次のような具体的なアドバイスをされています。アトランダムに並べてみます。
●(1)分かりやすくてストレスを感じないサイトつくること。
●(2)自分の体験に基づいた情報を公開すること。
●(3)複数のASP(アフィリエイト・サービス・プロバイダー=一種のネット問屋)と契約をしよう。
●(4)広告は「見せたい人に見せる」張り方を心がける
●(5)売上分析をする。売上を分析しないと広告収入は伸びない。ユーザーの反応を見て、より売上が上がるようにサイトをメンテし改良して行くことが重要。
●(6)ホームページは「トップページ」「コンテンツページ」「リンク集ページ」の三種類に分ける。「リンク集」は、ジャンルごとにページを分けたアフィリエイトのリンク集ページを作る。
●(7)独自コンテンツを重視する。あなたの得意分野でサイトを作ろう。特定のジャンルに特化するべき。「何でもある」は「何もない」が法則。あなたのユーザーは特定の情報を見に来たのであり、別の情報はどうでもいいことを知ること。
●等々、実践的で有益な情報が一杯です。

http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4798008613/smilynet-22/250-4902076-2535461

3・特集:古典再読 −芥川龍之介「羅生門」他(新潮文庫)−

●芥川の作品、特に王朝物と呼ばれる初期の作品群は、私の場合、中学生時代から現在に至るまで、折に触れて読み返しています。
●芥川の作品に関しては、「あの端正な文章とエゴイズムを暴き立てる描写は、年をとってくると、読んでいて疲れる。」という人もいます。
●私の場合は、50歳を過ぎた現在も、彼の作品を読み返していて「疲れる」というようなことは一向にありません。むしろ近頃は、「芥川の作品は結構『笑える』なあ」と感じています。これには、「現代の日本」という環境が影響しているかもしれません。私などは吉本新喜劇の出し物にできないかなあ、と思うくらいです。
●私は、生まれは福岡県ですが、少年時代から青春時代にかけて近畿地方に住んでおりましたので、子供の頃からテレビで吉本新喜劇の泥臭いドタバタ喜劇を見て育ちました。現在は東京都下に住んでいますので、テレビでも見る機会がほとんどありませんが、今でも、松竹新喜劇とは全く違った、からっとした笑いは嫌いではありません。
●吉本新喜劇の出し物は、そのほとんどが、その場限りの軽い笑いですが、私には一つだけ、未だに忘れられない作品があります。40年近くも前の古い話です。
●主役の役者さんの名前は忘れてしまいましたし、話の内容自体も覚えていません。印象に残っているのは、主人公が徹底的に「利」で動くということです。
●吉本らしい味付けは、条件の悪い相手に高飛車な態度で悪態をついていた主人公が、良い条件を出されると、とたんに態度を豹変させ、破顔一笑、「毎度おおきに。ありがとさんです。」と愛想良くします。これを次々と、舌の根も乾かないうちに繰り返すのです。そして、その度に、相手や、相棒までもが「アンタ、怖いワ。」と受けて満場が爆笑の渦になります。
●この出し物を見終わったとき、少年だった私にも、子供なりに、なんだか妙に心の中に残るものがあったのです。
●社会人になり、所帯ももち、年齢も40歳近くになってから、久しぶりに芥川の「羅生門」や「鼻」「芋粥」などを読み返していて、ふと、思ったのは、確かに「人間のエゴイズムを鋭く抉った問題作」ではあるけれども、この描かれたエゴイズムむき出しの人間の姿は、けっこう笑えるではないか、ということです。
●物盗りを見て正義感を燃やした若い男が、数瞬後、老婆の言い草に感ずるところがあって、自ら盗人となり、老婆の着物を盗んでゆく(「羅生門」)。
長い鼻を持て余していた高僧が、一度は人並みの鼻になりながら違和感に苦しみ、元の長い鼻に戻ってほっとする(「鼻」)。
長い間憧れていた芋粥をいよいよ食べる機会に恵まれた時、男を襲った空虚感。食べる機会が来ないほうが良かったような気がする男(「芋粥」)。
これはなかなか笑える話ばかりだと思いませんか。
●芥川という一代の天才作家は、一方で、ユーモアを解する人ではなかったか、そんな気がするのです。彼は、本当はバルザックやモーパッサンのような、醜悪ではあるが逞しくもある生き生きとした人間喜劇が描きたかったのではないでしょうか。生真面目な人だったようですから、ああいう感じの作品に仕上がってしまったけれど。
●吉本新喜劇さん、ひとつ、「爆笑!芥川劇場」という出し物はいかがですか。
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4480020810/smilynet-22/250-4902076-2535461

4.図書館の蔵書から
−香山リカ「若者の法則」(岩波新書。700円+税)−

●この本は2002年に出ていますが、名著と言ってよいのではないかと私は感じました。香山リカ氏というのは才人だな、と言うのが私の率直な感想です。
●それは目次を眺めただけでも分かります。現代の若者の生態を次のように分析しています。目次をご紹介しますと、
1「確かな自分をつかみたい」の法則
2「どこかでだれかとつながりたい」の法則
3「まず見かけや形で示してほしい」の法則
4「関係ないことまでかまっちゃいられない」の法則
5「似たものどうしでなごみたい」の法則
6「いつかはリスペクトしたい、されたい」の法則
ということになります。これらの章が、さらに小項目に別れて、簡潔な切れ味のいい文章で論じられています。
●特に感心したのは、表現しにくい微妙な感触を、理詰めな文体で、明晰に表現することに成功していることです。
●この点は、松任谷由美、中島みゆきといった詩人や、山本洋子のような詩人的センスの豊かな小説家と通ずるところがありますが、香山氏の場合はそれを論理的文章で表現できるところに特色があります。
●文章も、情理兼ね備え、簡潔的確で、全く無駄の無い見事なものです。論より証拠、少し引用してみましょう
●「1『確かな自分をつかみたい』の法則」から「学校」:「不登校の中学生、高校生とのつき合いで私が思ったのは、彼らにとって、実際にはほとんど行けない学校は、そこに『自分の座席がある場所』だということだ。『来たくないなら席をなくすから、もう気にしないでゆっくり休みなさい』といわれると、彼らは気が楽になるどころか、とってもがっかりする。」
●「3『まず見かけや形で示してほしい』の法則」から「暴力」:「ひとつだけ言えるのは、ある若者の中で『やさしさ』と『暴力』は矛盾せずに共存するものとなった、ということだ。もっと具体的に言えば、『やさしい若者は暴力的ではない』という定式は、もはや成り立たない。」
●「4『関係ないことまでかまっちゃいられない』の法則」から「やさしさ」:「この若者たちはいったい『やさしい』のだろうか、それとも『やさしくない』のだろうか----。グループ内の仲間に対しては過剰なほどやさしいのだが、それ以外の人に対してはむしろまったくやさしくない、とも言えるが、------」。
●この本は大人が、現代の若者の心情を読み解くバイブルになるかもしれないという気がします。香山氏にとってもこの本は、一生に何冊もは書くことが出来ないような、研ぎ澄まされた感受性が生んだ力作だとおもいます。
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4004307813/smilynet-22/250-4902076-2535461

5.スマイリーの日記
 −BLOGの威力−

●今年の2月13日(日)の読売新聞に興味深い記事が出ていました。見出しは
「『ブログ』の追求で辞任― ―CNNニュース責任者 米軍巡る発言 攻撃され---イーソン・ジョーダン氏― ―」(AP電)
というものです。お読みになった方も多いことでしょう。
●つまりこういうことです。米国CNNテレビのニュース部門の最高責任者イーソン・ジョーダン氏(44歳)は、今年の1月27日にスイスのダボスで開かれた世界経済フォーラムにおいて、“イラクで死亡したジャーナリストの何人かは、米軍が狙って殺した”ともとれる発言をしたらしいのです。本人はさすがに不適切と悟ったのでしょう、直後に発言を撤回しています。
●ところが、この発言が漏れ伝わり、反発した人々が、「命をかけている米兵に根拠のない主張をするのは許せない。」と「イーソンゲート・コム」というブログを開設。他の20以上のブログと連携しながら、フォーラムの参加者から得た情報などを持ち寄って、同氏を追及しました。
●同氏は2月11日、突然辞任しました。
●実は、2004年9月に米国CBSが伝えたブッシュ大統領の軍歴疑惑報道も、ブログの追及から「裏付けなし」と判明し、幹部四人の首が飛んでいるのだそうです。CBSの場合は、疑惑発覚後、なかなか問題を認めなかったため、結果的に傷口が広がったようです。
●この前例から、CNNはジョーダン氏を早々に辞任させ、この問題の早めの幕引きを狙ったようです。
●読売のブログに関する解説によると、米国の人気ブログは一日数十万人規模のアクセスがあり、米国では中堅紙なみだそうです。コメントやトラックバックなどの機能を考えれば、実質的には新聞以上の影響力を持っている可能性があります。
●これらの経緯を見ていると、カッコイイといういか、勇ましい、というか。でも何となく、これは一種のリンチ(=私刑)ではないか、という気もします。
●米国生まれのブログというコミュニケーション・ツール、本場ではこういう使われ方をしているんですね。「民主主義」の国、または「自治」の国の代表と見られている米国は、一方では、「リンチ」の国でもあるようですね。昔よく見た西部劇のシーンを思い出します。濡れ衣を着せられた主人公が、町の人間による集団リンチに遇い、強引に縛り首にされそうになりますが、そこに駆けつけた-----、というお話がよくありました。
●ただ、この記事で重要なことは、米国では、新聞やテレビのようなマスコミでさえも、国民のシビアーな監視にさらされる、ということです。この記事を書いた読売の記者さんは、そのことに気づいていますかねえ。
●日本では、新聞やテレビのようなマスコミは、政府と並ぶ「第二の権力」化しています。これに対するカウンターパワーが今のところありません。その結果、当然のごとく、腐敗が始まっています。
●朝日新聞の記事捏造や左翼イデオロギー記事、NHKの公私混同、読売新聞会長の傲慢な態度、ライブドアがニッポン放送やフジテレビへの経営参加を図ると、官民上げて、法律を捻じ曲げてでも新参者を排除しようとする、極端な排他性。
●日本のマスコミの健全な発達をはかるには、どうしてもカウンターパワーが必要だと思います。もしかしたら米国のように、ブログの普及がその役割を果たす時がくるかもしれません。
●「2ちゃんねる」のような巨大掲示板サイトがそれになるかな、と、一時は私も思いましたが、所詮は匿名メディアです。本音や鋭い意見も出ますが、無責任でワンパターンな書き込みのほうが圧倒的に多くて、メインのメディアにはなれそうにありません。
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4492501312/smilynet-22/250-6023426-6836251

6.今月の心に残る言葉 −−
(今回は、石原慎太郎監修「人を感動させる言葉」<1994年。KKベストセラーズ。文庫> に掲載されていた、ある新聞の投書欄の読者投稿記事「つらい十年を支えたことば」をご紹介します。私の心に残った文章です。少々長いですがご容赦ください。)

「『おどま盆ぎり盆ぎり---』黒板いっぱいに『五ツ木の子守唄』が書かれ、それを見て、中学一年生の私たちは、いい気持ちになって歌った。音楽の時間ではない。社会の授業なのである。歌い終わると、熊本県五ツ木地方の風土、産物、歴史などを習う。また『島原の子守唄』『常磐炭坑節』『秩父音頭』『相馬盆唄』『そうらん節』などの民謡も歌って、日本を一周した。最後にくばられた白紙に日本地図を書き、山脈を入れ、川を書きこみ、日本地理編は、このペーパーテストで仕上げ。その楽しかったこと。
その先生には、たった一年しか習わなかった。先生の勤務変更のためである。ある授業中、先生の半生を聞いた。そして『ぼくは貧乏を恥とは思わない。生徒を見て、貧乏だからかわいそうだなとは思わない。よくやっているなと激励したいだけだ』
そのことばが、胸いっぱいにとびこんできて、私に涙をこぼさせた。雨降りに、カサもなくクツもなく、学校までかけ込んで行く私を見ても「がんばれ」と言ってくれるのだ。床についている父の姿を見ても「がんばれ」と言ってくれるのです。力強く勇気がわいてきて、現実をしっかりみつめ、大切な日々を生きるのだ、と世の中がゆかいに思われた。
それから十年----。つらくなったとき、自分自身、弱くみじめになる時、疲れたとき、苦難の時、『よくやっているな、と激励してあげたい』といってくれた先生のことばを思い出して、また、よし、がんばろう、ひきょう者になってはいけない、とわが身を励ましてきた自分である。いまでも、どこかで教壇にたっているであろう先生に、お礼を言いたい。」
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4584303096/smilynet-22/250-4902076-2535461

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(編集後記)
◎今月号は再開第二号ですが、内容は如何でしたか。
◎今回の「今月の心に残る言葉」は、図書館で気まぐれに借りた文庫本のなかから、偶然みつけた文章です。当初は別の「心に残る言葉」を考えていたのですが、急遽こちらに変更しました。素晴らしい出会いがあったんですねえ。キーボードで打ち込みながら、涙がこぼれて困りました。

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(プロフィール)スマイリー。会社員。フリーライター志望。
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